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最高裁判所第二小法廷 昭和23年(れ)1838号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

辯護人舍川軍藏の上告趣意について。

記録を調べると、所論の窃盗難届の末尾に坂尾ろくの氏名の記載のないことは所論指摘のとおりである。然し舊刑訴第七三條は、假令所論の如き氏名の記載がなくても、その一事によりその書類を無効の書類とする旨の規定ではないのでる。從って裁判所において他の證據に依り當該書類が真正に成立したものであるとの心證を得た以上、之を斷罪の證據に供することは少しも差支のないところである(當裁判所昭和二十二年(れ)第二四六號昭和二十三年五月十二日大法廷判決。昭和二十三年(れ)第三二四號同年六月二十六日第二小法廷判決各参照)。而して所論窃盗難届は(1)その被害者の住所氏名年齢欄に「坂尾ろく」との記載ある外、その書類の末尾に坂尾との押印あること。(2)同取扱者及び受附年月日の各欄に「受附年月日昭和二十二年六月十一日太田警察署勤務司法警察官警部補松本徳松」との記載と同押印あること。(3)原審昭和二十三年八月五日の第五回公判調書に依れば、当日辯護人舍川軍藏(當審に於ても辯護人である)出廷立會の上(原審においては、被告人病氣の爲め數回公判期日を延期の後、結局被告人不出頭の侭審理判決された案件であること記録上明らかである)所論の窃盗難届をも含めた證據調が行われた際、裁判長は辯護人に對し特に「右書類の作成者又は供述者の訊問を請求する事が出來る旨告げたるに」「舍川辯護人は、なしと答へた」との右公判調書の記載あり。即ち之に依れば、同辯護人は所論書類につき何等の意見も異議も述べず又坂尾ろくを證人として喚問申請をも爲さなかったものであること。以上の各事実は一件記録に徴し極めて明瞭である。以上の各事実に徴すれば所論書類は坂尾ろくの真意の下に真正に成立したものであると認められる以上原審が所論書類を斷罪の資に供したことは何等の違法は存しないのである。されば論旨はすべて理由のないものである。

仍って刑訴施行法第二條、舊刑訴法第四四六條に從い主文のとおり判決する。

此判決は裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山 茂 裁判官 藤田八郎)

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